令和六年睦月 東京国立博物館「博物館に初もうで」

新春恒例の、東博「博物館に初もうで」に行ってきました。

11時過ぎに着いたら、本館前で和太鼓の演奏をやっていました。東洋館や表慶館の建物に反響して迫力がありました。

和太鼓 湯島天神白梅太鼓

まずは、本館2階の国宝室の長谷川等伯『松林図屏風」にお参りしました。予想通り人垣ができていて、全体の写真は撮れそうにありません。

松林図屏風 長谷川等伯筆 6曲1双 安土桃山時代・16世紀 国宝 1/14まで

左隻右上の、林の上に顔をのぞかせている富士山(?)を拝んでから、特別1室の企画展示「謹賀新年 年の初めの龍づくし」で展示されている、『十二神将立像(辰神)』を観に行きました。

十二神将(辰神)京都・浄瑠璃寺伝来 鎌倉時代・13世紀 重要文化財 1/28まで

博物館で仏像を鑑賞するメリットは、いろいろな角度から像を観察できることです。横から見ると今にも刀を抜きそうなのですが、正面から見ると抜かないでこちらをにらみつけているようです。顔はいかめしいのですが、胴に比べ頭部が大きめで頭に乗った竜もかわいいので、全体に愛らしい腕白坊主のようです。解説文には「歌舞伎役者が見得を切るようなポーズに注目」とありましたが、「何を言ってるんだ、役者の方が俺のマネをしているんだよ」と怒っているのかもしれませんね。

その特別1室の隅に、美しい梅の大きな老木の絵がありました。

芝園臥龍梅記並詩歌 狩野栄信画 江戸時代・文化11年(1814) 紙本着色墨書

龍の特集なのになぜ梅かと思ったのですが、描かれているのが竜が横たわっているように見える大きな梅の木「臥龍梅(がりょうばい)」だからとのことでした。描いた狩野栄信(かのう ながのぶ1975~1828)は江戸時代後期の絵師で、江戸城大奥内に作業場を与えられた奥絵師の家のひとつ、木挽町狩野派の8代目です。狩野派というと豪放な水墨画や枯れた山水画をイメージしがちですが、江戸中期以降は様々な画派の技術を取り入れた作品も描くようになりました。この絵も、琳派的な華やかさも感じさせるとても素敵な作品です。

 

茶の湯の美術を展示する4室は、12月に改装されてちょっとモダンな和室のような空間になっていました。私の目を引いたのは『魚屋(ととや)茶碗 銘さわらび』という高麗茶碗でした。

魚屋茶碗 銘さわらび 朝鮮時代16~17世紀  3/10まで

釉薬にむらがあり、やや鴬色を帯びた地のうえに琵琶色のまだら模様が浮き、はなやかでありながら全体に落ち着いた美しさをたたえています。たくさんの人が周りにいるのですが、この茶碗を見ている間は静けさを感じました。

 

蒔絵を中心に漆工作品を展示する本館1階12室では、源氏物語の冊子を納める小型の箪笥「源氏箪笥」がいくつか展示されていました。

源氏物語蒔絵源氏箪笥 江戸時代・17~18世紀 木製漆塗 3/10まで

写真の源氏箪笥は、3段6個の抽斗(ひきだし)を収め、外側には源氏物語の名場面が描かれた豪華な作品です。本を入れるだけでこれほどの容器を作るとは、いかに源氏物語を中心にした文化が尊ばれていたかがしのばれます。大名家の婚礼用の調度品ではないかと解説文にありました。余談ですが、今年のNHK大河ドラマの主人公は源氏物語を書いた紫式部とのこと。私は、藤原道長らの陰謀により没落していく藤原定子の一族を、「枕草子」で美しく描いた清少納言の方が好きです。

 

近代美術を展示する1階の18室では、浅井忠の水彩画が10点展示されていました。以前、浅井の油彩を見て薄暗い絵が多いと思っていたのですが、今回見た水彩はとてもさやかで瑞々しく、少しなつかしい雰囲気を感じさせる絵が多いように感じました。彼は幕末に生まれ、最初南画を習ってから工部美術学校でイタリア人お雇い画家、フォンタネージ(1818~1882)に就いて洋画を修めました。

フォンテンブローの森 浅井忠筆 紙・水彩 1/21まで 

今回私が良いなと思ったのは、明治34(1901)年、フランス留学中に描いた「フォンテンブローの森」です。森の木陰から右上方の明るい空間を見上げる画家の視線を共有すると、120年前のフランスの郊外にいるような気が、ちょっとだけしました。

 

次に行った東洋館8室では、中国最後の文人といわれる呉昌碩(ご しょうせき 1844~1927)の生誕180年記念特集展示がありました。書は詳しくないのですが、有名な石鼓文(せっこぶん)の臨書には思わず見入ってしまいました。

臨石鼓文軸 呉昌碩筆 中華民国6年(1917)  絖本墨書 3/17まで 


石鼓文とは古代中国で10個の太鼓状の石に刻まれた、篆書(ハンコなどに使われる古い書体)の文章のことで、石は北京の故宮博物院にあるそうです。書かれている内容は全く分かりませんが、手を挙げている人や皺だらけの顔のような文字がある一方、「是」や「走」と思われる字もあって、見ているだけで楽しくなりました。

 

東洋館を出ると、本館前で獅子舞の午後の部をやっており、外国人を含めたくさんの人が見ていました。

獅子舞 葛西囃子中村社中

今年は地震と飛行機事故という、とんでもないことから始まってしまいました。世界のあちこちで戦争や紛争も続いています。どうか良い方向に世界が進んでほしいと祈りながら、東博を後にしました。

皆様、今年も健康に留意し、芸術を楽しみましょう。